第5話 オールドクロー

第1部|いつもの酒、いつもの沈黙

 ユウジは、扉を開ける音さえ控えめだった。入ってきた気配は薄いのに、カウンターの端へ歩く足取りだけは迷いがない。照明がわずかに柔らかく落ちる、いつもの席。
「オールドクローを、ロックで」
 短い注文。声は低く、語尾がきっちり閉じている。医者らしい、言葉を節約する癖。けれど、グラスが置かれた瞬間だけ、彼の視線がほんの少しだけ長くなる。氷が当たる音を確かめるように、耳が音の方へ寄る。

 六十代後半。背筋は丸めず、髪は白が混じっても整えてある。指先にだけ、疲れが残る。研究者の手だ、とマスターは思う。何かを掴むより、測るための手。

 彼は急がない。ひと口飲んで、しばらく黙る。その沈黙が店の静けさに溶け、むしろ空気が整う。
 何度も通う常連でも、ユウジの私生活を知る者はいない。職業は、どこからか「医者で科学者」と聞いた。本人が語ったことは一度もない。

 マスターは、たまに思う。なぜ、毎回同じ酒なのか。
 ユウジは、氷が少し溶けて角が取れていく様子を見ている。味の変化を追うように、ゆっくりと。そこには、慣れた観察の目がある。

 帰り際、会計の前で彼はいつも一度だけ棚を見る。視線はオールドクローのボトルの高さを確かめ、すぐに落ちる。まるで、そこにあることが大事だと言うように。
 ある夜、マスターが何気なく言った。
「いつも、これですね」
 ユウジは一瞬だけ止まり、うなずいた。
「……これだけは、変えないんです」

 その言い方が、妙に重かった。
 “変えない”のではなく、“変えられない”のではないか――そんな気がして、マスターは言葉を飲み込んだ。
 ユウジが扉を開けた瞬間、外の冷気が入り、店内の氷の音が一段と澄んだ。
 その音を聞きながら、マスターは初めて思った。
 この酒は、彼の過去のどこに繋がっているのだろう、と。


第2部|気づかう人の習慣

 ユウジの過去を、マスターは直接知らない。けれど、長く店をやっていると、酒の飲み方がその人の暮らしを連れてくることがある。
 ユウジのロックは、いつも丁寧だ。氷を揺らしすぎない。香りを急に立てない。舌に乗せる量も少ない。味を“受け取る”というより、“確認する”飲み方。

 ある夜、ユウジが珍しく、口を開いた。
「昔……飲み会で、彼女に叱られたことがあるんです」
 マスターが黙って耳を傾けると、ユウジはグラスの水滴を見つめたまま続けた。
「叱るというより、先回りされる感じで。……水を出してくる。飲み過ぎないで、って」
 彼女。ユウジが“彼女”とだけ呼ぶ誰か。そこに名前が乗らないのが、かえって大事な人だと感じさせる。

 ユウジの話は断片だった。
 大学時代、自分の研究室の飲み会に顔を出した後輩がいたこと。彼女は輪の外側にいるのに、全体を見ている人だったこと。場が荒れそうになると、話題を少しずつ柔らかい方へ運ぶ。誰かが酔い過ぎる前に、さりげなく水を置く。
「気づかいって、ああいうのを言うんでしょうね」
 ユウジはそう言い、すぐ黙った。

 マスターはその“気づかい”を、店でもよく見る。言葉にしない思いやり。相手が恥をかかないように、相手が自分を責めないように、先に整えておく手つき。
 ユウジは、その手つきを思い出すときだけ、表情が少し緩む。だが同時に、まぶたの奥がきゅっと固くなる。

「その方、今は……」
 マスターが言いかけたとき、ユウジは静かに首を振った。
「……彼女は、心配をかけるのが嫌いでした」
 それだけ言う。今がどうか、とは言わない。
 マスターは、もう踏み込まなかった。踏み込むと、ユウジの“気づかい”が壊れる気がした。

 帰り際、ユウジはいつも通り棚を見た。ボトルの位置を確かめるように。
 扉の前で、彼は立ち止まった。
「……あなたは、知らなくていいの」
 誰かの声を真似たのか、自分に言い聞かせたのか分からないほど小さく、そう呟いた。

 マスターは背中に問いを投げる。
 “知らなくていい”とは、何を隠した言葉なのだろう。
 そして、ユウジが背負っているのは、どれほどの時間なのだろう。


第3部|知らされなかった時間

 それから数日後、ユウジはいつもより遅い時間に来た。外套を脱ぐ動作が重く、肩がわずかに落ちている。
「同じので」
 注文の言い方が、いつもより短い。

 グラスが置かれ、氷が鳴る。ユウジはそれを聞いて、少しだけ目を閉じた。
「入院って、本人から言われました」
 唐突に、そう言った。
「病状を知ったのは、医者としてじゃなくて……家族として、でした」
 家族。その言い方が、胸の奥をかすめる。

 彼女は、ミチコという名前だった。自分より一歳下。身体が弱く、病気がちで、家にいる時間が長かった。
「でも、元気に振る舞うのが上手で。……僕は、信じた」
 信じた、というより、信じたかったのだろう。ユウジは言葉の端で自分を責めている。

 入院して初めて、余命が短いと聞いた。
「どうして黙ってた、と言いました」
 ユウジは淡々と語るが、指先が氷の入ったグラスを強く掴みすぎている。
「そしたら、ミチコは……“あなたが壊れる顔を見たくなかった”って」

 ユウジは医者だ。治療法の可能性を探すのは職業の本能でもある。まして妻なら、なおさらだ。
「論文を読みました。国内も海外も。仮説を立てて、実験して、結果を捨てて……」
 積み重ねた時間の音が、言葉の裏から聞こえる。
「でも、時間が足りなかった」

 マスターは、何も言えなかった。慰めは軽い。励ましも重い。ただ、酒を切らさないようにするだけだ。
 ユウジは一口飲み、少しだけ顔をしかめた。
「この酒、荒いでしょう」
 マスターがうなずくと、ユウジは小さく笑った。
「僕のやり方に似てるんです。削り切れてない感じが」

 ミチコは亡くなった。間に合わなかった。
 ユウジはそれを言い切ったあと、しばらく黙った。
 店内に、氷が溶ける音だけが残る。

 帰り際、彼はいつもより長く棚を見た。
 そして、言った。
「治せなかったんじゃない。……間に合わなかっただけです」

 その“だけ”が、どれほど残酷な言葉か、マスターには分かった。
 けれどユウジは、その“だけ”にしがみつくしかないのだろう。
 では彼は、これから何に向かうのか。
 酒を変えない理由の奥に、まだ答えがある気がした。


第4部|それでも続けた理由

 ミチコがいなくなってからも、ユウジは研究を続けた。
 それを聞いたとき、マスターは少し驚いた。悲しみの後に、生活を立て直すだけでも大変だ。まして、失った原因に向き合い続けるのは容易ではない。

 ユウジは、ゆっくりと首を振った。
「やめられないんです」
 その言い方は頑固だった。だが頑固の裏に、無理やり火を消さない人の静かな意志がある。
「ミチコが、最後まで“続けて”って言った。……僕が諦めるのが、一番嫌だったんでしょう」

 気づかいが、最後の最後まで彼女の形を取っている。
 自分が死ぬことより、夫が止まることを恐れた。そういう人がいる、とマスターは思う。
 ユウジの目は乾いているのに、声だけが少し掠れる。

 ユウジは、成果を誇らない。誰かに褒められたいわけでもない。
「新薬の開発って、結局、運もある。努力で全部取れるわけじゃない」
 それでも、彼は続ける。
「でも、続けた人しか拾えない結果もあるんです」

 オールドクローのロックを、ユウジはいつもより長く味わった。溶けていく氷の角を見ている。
「時間が溶けるのを、見てるみたいで」
 ぽつりと漏らす。
 時間に追われて、時間に負けて、時間に残された男が、時間を見つめ直している。

 マスターは、酒をただの飲み物として扱わない。酒は、選ぶ人の事情を映す。
 ユウジはその夜、珍しくこう言った。
「派手じゃないんですよね。これ。……でも、芯が残る」

 芯。何の芯か。酒の芯か、ミチコの芯か、ユウジ自身の芯か。
 たぶん全部だろう。

 会計のとき、ユウジは財布を出しながら、ふと笑った。
「新しかったものは、必ず古くなる」
 それは研究の話にも聞こえたし、人生の話にも聞こえた。
 そして、酒の話にも。

 扉を開ける前、彼は一度だけ振り返った。
「……でも、古くなっても残るものがある」

 残るもの。
 それは何か――マスターはその言葉の行き先を、まだ知らない。
 ただ、次にユウジが来る夜には、その“残るもの”に触れられる気がした。


第5部|古い酒の話

 次の夜、マスターは棚の前で少しだけ考えた。
 ユウジが選ぶ酒は、なぜこれなのか。味の好みだけでは説明がつかない。
 だから、答えを押し付けるのではなく、話の糸口だけを用意しておくことにした。

 ユウジが来て、いつもの席、いつもの注文。
「オールドクロー、ロックで」
 マスターはグラスを置き、氷の音が落ち着くのを待ってから言った。
「この酒、昔は“新しかった”って話、聞いたことあります?」
 ユウジの目が、わずかに動いた。

 マスターは続けた。
「今の基準で見ると、素朴というか、荒い。だけど昔は、作り方そのものが革新的だったって」
 “科学”という言葉を、マスターはあえて口にしなかった。先に言うと、答えになるからだ。
 ユウジは黙って、ひと口飲んだ。

 しばらくして、彼が言った。
「……誰かが、仕組みを整えたんでしょうね」
 仕組み。ユウジの得意な語彙だ。感情ではなく構造で考える人間が、悲しみを構造で抱えようとしている。

 マスターはうなずき、軽く笑った。
「派手なラベルの酒は、売れる。でも、こういう酒は……棚の奥で生き残る」
 ユウジの視線が、また棚へ行った。
 まるで、そこに“生き残る”という言葉の意味が置かれているかのように。

 ユウジはゆっくりと言った。
「ミチコも、派手じゃなかった」
 初めて、彼が妻の名前をここで言った。
「僕が気づかないように、気づかせないように、支えるのが上手でした。……僕は、支えられてたのに」

 マスターは言った。
「気づかいって、相手の“痛み”を代わりに抱えることでもありますからね」
 ユウジは顔を上げずに、うなずいた。

 その夜、ユウジは帰り際、棚の前で足を止めた。
 ボトルを見つめて、呟く。
「……昔、新しかったものは、必ず古くなる。でも、礎になったものは、消えない」

 礎。
 その言葉が出た瞬間、マスターは確信した。
 この酒は、ユウジの“過去”を映す鏡だ。
 そして、その鏡には、まだ最後の像が映っていない。


第6部|完成しなかったもの、残ったもの

 冬の夜が深くなる頃、ユウジはいつもより早い時間に来た。
 コートを脱ぐ手が少し震えている。寒さではない。長い緊張を抱えた人の震えだ。

「同じので」
 オールドクローのロック。氷が鳴る。
 ユウジはひと口飲んで、息を吐いた。
「……できました」
 それだけ言い、しばらく黙る。

 “できた”が何か、マスターは聞かなかった。
 だが、ユウジの目の奥の乾いた光が、研究者のそれだった。成果が出たときの、喜びとは違う静けさ。
 勝ったのではなく、ただ前へ進んだ人の顔。

「遅すぎても、無駄じゃない」
 ユウジは自分に言い聞かせるように呟く。
「ミチコには、間に合わなかった。でも……同じ病気の人はいる。あの人みたいに、“大丈夫”って笑う人も」

 マスターはグラスの水滴を見た。
 ユウジの言葉は、ミチコを救えなかった後悔で始まり、誰かを救う責任へ変わっている。
 それは贖罪にも似ているが、もっと静かなものだ。彼女の気づかいを、今度は自分が受け継ぐということ。

 ユウジは続けた。
「ミチコは、最後まで僕を心配してた。……だから、僕も、誰かを心配できる人でいないといけない」
 その言い方に、夫婦の形があった。
 支えられる側が、支える側へ回る瞬間。

 マスターは言った。
「形は変わっても、残るものがあるんですね」
 ユウジは、少しだけ笑った。
「残るものだけが、次に渡せる」

 そして、急に話題を変えるように、棚を見た。
「この酒の“新しかった頃”の話……もう少し、知りたいです」
 その一言で、マスターは分かった。
 ユウジは“答え合わせ”を求めているのではない。
 自分の人生と重なる何かを、言葉にして受け取りたいのだ。

 ユウジはグラスを置き、氷の残りを確かめるように見た。
「……これは、ミチコのためじゃない」
 小さく言う。
「彼女は、もう苦しまない。だから……これは、これからの人のためです」

 その夜の引き戸の音は、いつもより軽かった。
 だが、マスターの胸には、ひとつの問いが残った。
 “新しかった頃のこの酒”は、どんな人が、どんな思いで作ったのか。
 それが語られたとき、ユウジの物語も、完全に繋がる気がした。


第7部|オールドクロー

 次にユウジが来た夜、マスターは小さな紙片を用意していた。昔の資料を辿って見つけた、いくつかの断片。長い説明にしないための、最低限の言葉だけ。

 ユウジはいつも通り席に座り、同じ酒を頼んだ。
 マスターはロックを出し、少し間を置いてから話し始めた。

「この酒の“新しかった頃”ね。昔、ケンタッキーで、ある人物が酒造りに“科学”を持ち込んだって言われてます」
 ユウジの目が、はっきりとこちらを向いた。
「当時は勘に頼ってた部分が多かった。でも、その人は発酵や仕込みを整えて、同じ品質を目指した。今の当たり前の礎になったって」

 ユウジは、グラスを持ったまま動かない。
 氷が静かに鳴る。
 その音が、遠い研究室のガラス器具の音に似ている気がした。

「名前が残り続けるって、すごいことですね」
 ユウジが言う。
 マスターは首を振った。
「有名な酒ほど、いつも今の評価だけで見られる。でも……礎になったものって、派手じゃない。時代に削られて、棚の奥で静かに生き残る」

 ユウジは、ふっと息を吐いた。
「ミチコみたいだ」
 初めて、彼がはっきりそう言った。
「彼女は、僕の前ではいつも元気だった。心配をかけないために。……余命が短いのも隠して」
 言葉が、胸の奥から引き上げられるように出てくる。
「僕は医者なのに、夫なのに、気づかなかった。いや……気づける機会はあった。でも、信じる方を選んだ」

 マスターは静かに言った。
「気づかいは、時に残酷です。相手を守るために、真実を抱え込む」
 ユウジはうなずいた。
「でも、彼女の気づかいがなかったら、僕は折れてた。……彼女は、自分の痛みを抱えたまま、僕を前へ押した」

 ユウジはグラスを傾ける。
「科学で道を切り開いた酒が、今は“古い酒”として棚にいる。……でも、礎は消えない」
 彼は言葉を選ぶように続けた。
「ミチコも、同じだ。派手に生きなかった。でも、僕の生き方の礎になってる」

 氷が鳴る。
 その音は、もう悲しみの音ではなく、確かめる音に変わっていた。
 ユウジは最後に、ボトルを見て呟いた。
「老いたカラスは、もう飛ばない。でも……空の在り方を変えた」

 マスターはその背中を見送りながら思った。
 酒は、過去を映す鏡だ。
 けれど鏡は、過去を閉じ込めるためではなく、これからを選ぶためにある。
 ユウジがオールドクローを変えないのは、思い出に縛られているからではない。
 礎を手放さずに、次へ渡すためなのだ。

 扉が閉まり、店に静けさが戻る。
 棚の奥で、黒いラベルが微かに光った。
 それは、語られすぎない歴史のように、静かに、確かに、そこにあった。

『静かに消えた来客 ― サンジという男』

第1部 静かな来訪者

 夜十時を回ったころだった。小さなバーの扉が静かに開き、ひとりの男が入ってきた。昼間の喧騒も、深夜の酔客のざわめきもない、静かな時間帯にふさわしい歩き方だった。
 男は六十代前半ほど。背筋を少し丸め、けれど身だしなみはきちんとしている。着ているシャツには皺ひとつなく、靴は磨かれて光っていた。髪も短く整えられ、無駄なものを削ぎ落としたような雰囲気がある。だがその目の奥には、何か深い湖の底のような影が沈んでいた。

「いらっしゃいませ」

 声をかけると、男は小さく会釈し、カウンターの端に腰を下ろした。
「……静かで、いい店ですね」
 柔らかな口調だったが、どこか遠くから声が聞こえるような、そんな印象を受けた。

「何になさいますか?」
「安いウイスキーを、ロックでお願いします」

 注文の仕方も丁寧で、言葉の選び方に慎重さがあった。
 ウイスキーを注ぎ、グラスを置くと、男は両手で包み込むように持ち、少し目を閉じた。まるで、その液体に何か懐かしい記憶でも浸っているかのように。

 数分が経ち、彼はぽつりと言った。
「ここへ来るのは、初めてなんです」
「そうですか。遅い時間帯は、だいたい静かですよ」
「……静かな方が、落ち着きます。騒がしいところは、どうも苦手で」

 その言葉に、私はなるほどと思った。彼の動作や話し方から、極端に物事を乱したくない性質が伝わってくる。清潔感の理由もそこにあるのだろう。
 だが反面、その整いすぎた身なりの奥に、“乱れたものを抱えている人間がよく見せる緊張”を少し感じた。

 男は少し間を置いてから続けた。
「……人は、後悔をし続けて生きていくものですね」
 その一言は、この場には少し重い。
「そういう時もありますね」
「ええ。でも、そういう時ほど……誰かの温かい言葉が欲しくなるんです。少しだけでいい」

 彼はウイスキーをひと口含み、静かに息を吐いた。
 この言葉をどこまで受け止めればいいのか、私は迷った。だが不思議と、“深くは聞くな”という直感が働いた。

「お客さん、お名前は?」
 自然に口をついて出た言葉だった。

「……サンジ、と呼ばれていました」
 “いました”という過去形に、私はほんの少し引っかかりを覚えた。

 店に漂うジャズの音、ウイスキーの香り、グラスの氷が溶ける音。その全ての中で、サンジという男はじっと一点を見つめている。その表情は静かだが、心の奥に何かが積もっているようだった。

「また、来てもよろしいですか」
「もちろんです。お待ちしています」

 そう言うと、サンジは初めて微笑んだ。
 だがその笑顔はどこか儚く、まるで“長く続かない関係”を自分で分かっているようにも見えた。

 その夜、サンジはグラス一杯だけを飲んで、静かに帰っていった。
 彼の後ろ姿を見送りながら、私は思った。
――あの人は、きっと何かを背負っている。
 そして、その何かはきっと軽くはない。

 この時はまだ、彼が“ある罪”を抱えたまま生きていることを、私は知らなかった。

第2部 サンジの優しさ

 サンジが二度目に店へ現れたのは、前回から三日後のことだった。
 その日は閉店までまだ一時間ほどあったが、店は相変わらず静かで、カウンターには私しかいなかった。
 扉が開くと、前回と同じように彼は丁寧に頭を下げ、同じ席へ座った。

「……また来てしまいました」
「歓迎しますよ。常連さんは多い方が助かります」

 そう言うと、サンジは少し照れたように笑った。
 その笑顔は、初回のときより柔らかかった。
 彼の注文も変わらず、安いウイスキーのロック。
 だが、彼の指先が僅かに震えているのを見て、何か良いことがあった訳ではないと悟った。

「今日は……少し、心が落ち着かなくて」
「それは、お疲れさまです」
「疲れているのか……罪悪感なのか……自分でもよくわからないんです」

 また“重い言葉”だった。
 だが、私はあえて深くは聞かない。
 サンジが語る準備をしていないことは、彼の声の震えから分かった。

 この夜、印象的だったのは、店を閉める準備をしていたときだった。
 私はカウンターの奥でグラスを片付けていたが、ふと気づくとサンジが棚の前で、落ちたメニュー表を拾って整えていた。

「すみません、お客さんが手伝う必要は……」
「いや、気になってしまって。こういうの、きちんとしていないと落ち着かないんです。性分なんでしょうね」

 彼は本当に几帳面で、誰かの役に立つことを自然にしてしまう。
 それは優しさでもあり――同時に“自分で自分を律するような生き方”のようにも見えた。

 その翌週。
 店を閉めようとしていた時、外から女性の悲鳴が聞こえた。酔っ払いに腕を掴まれた女性が困っているらしい。
 私が外へ出ようとすると、それより早く飛び出していったのがサンジだった。

「やめなさい!」

 普段の穏やかな声からは想像できない、鋭い叫びだった。
 サンジは酔っ払いの腕を掴んで強く制し、女性を後ろへ下がらせる。
 その落ち着いた対応と、迷いのない力の入れ方を見て、私は驚いた。
 短時間で状況を判断し、相手を傷つけず、無理なく制圧している。
 普通の人間にできる動きではない。

 その後、サンジは女性に深々と頭を下げた。
「大丈夫でしたか。怖い思いをさせてしまいましたね」
 女性は震えながらも、何度もありがとうと言った。
 サンジは最後まで優しい目で見守り、女性がタクシーで帰るのを静かに見送った。

 私は声をかけた。
「サンジさん、今日は助かりました」
 彼は少しだけ笑った。
「人のために動けるときだけ……私は、自分を許せる気がするんです」

 許せる――という一言が胸に残った。
 彼は誰かを救うことでしか、自分を保てないのかもしれない。
 その陰に、深い後悔や罪悪感が確かに存在していた。

 帰り際、サンジはぽつりと呟いた。
「店主さんのような人を見ると、救われますね」
「私はただの酒屋ですよ」
「いえ……こういう場所があるから、まだ人間を続けられる人もいるんです」

 その言葉の意味を、私はまだ理解していなかった。
 だが、この夜のサンジの行動すべてが――
“彼は本来、誰かを傷つける人間ではない”
 ということを私に強く刻みつけた。

 それが、後に知る“彼が人を殺した理由”を、より痛ましく感じさせる伏線になるとは、このとき思ってもいなかった。

第3部 過去の気配

 サンジが店に来る頻度は、少しずつ増えていった。
 週に一度だったのが、いつの間にか二度になり、気がつけば「この時間に来るはずだ」という存在になっていた。
 彼は変わらず穏やかで、少し控えめな笑顔を浮かべ、同じ安いウイスキーを頼む。

 だが、ある夜。
 サンジは珍しく、酒を舐めるようにゆっくり飲んでいた。
 普段のようにカウンターを整えることもせず、両手でグラスを包みこんだまま、じっと琥珀色の液体を見つめていた。

「……人生って、難しいものですね」
 ぽつりと呟かれた言葉は、店内の静けさを裂くように重かった。

「何かありましたか?」
 私が尋ねると、サンジは首を振った。
「いいえ。ただ……時々、自分がどこへ向かっているのか分からなくなるだけです」

 その言葉は、深い沼の底から絞り出されたようだった。

 視線を落としたまま、サンジは続けた。
「人は……守りたいもののために、壊れてしまうことがあります。正しいことをしたつもりでも、結果だけ見れば、間違っていたり」
「守るために、間違えてしまう?」
「そうです。そういう愚かさが、人間にはありますね」

 影が濃くなる話題の前でも、サンジは声の調子を変えなかった。
 ただ、その瞳の奥では、消えない何かが燃えているように見えた。

 その一瞬、サンジの右手がグラスから離れた。
 その指に、私の視線が止まった。

 ――古い傷跡。
 指の第二関節付近に、切り傷とも火傷とも取れる痕がいくつも走っていた。
 細かなものから斜めのものまで、まるで何度も痛みを伴う作業を続けていたような跡。

 私は思わず聞いてしまった。
「その傷……昔のお仕事で?」

 サンジは微笑んだ。
 だがその笑みは、今まで見たどの笑顔よりも弱く、無理に浮かべたようだった。

「昔、少しだけ荒れた生活をしていたので……。でも、もう全部、終わったことです」

 言葉は静かだったが、
 “終わったこと”
 という確信に満ちた言い方が、逆に私の胸に引っ掛かりを残した。

 さらにその夜。
 サンジは少し酔いが強かったのか、珍しく自ら話し始めた。

「ねえ、店主さん……もし人生をやり直せるなら、どうします?」
「そうですね。私はこの店をもう一度、同じように始めます」
「理由は?」
「大変なこともありますが……後悔はないので」

 サンジは、ゆっくりと瞬きをした。
「後悔が……ない?」
「はい」
「……羨ましいです。本当に」

 サンジは自分の胸に手を当てて、小さく震えていた。

「私は……後悔ばかりですよ。やり直せるなら……全部を違う選択にしたい」

 その声は、かすれていた。
 酒のせいではない。
 胸の奥から滲み出る“悔恨”そのものだった。

 サンジはそのあと、人が変わったように黙り込み、グラスを傾けた。
 会話はそれ以上続かず、最後まで表情は暗い影のままだった。

 帰り際、私が「また来てください」と声をかけると、サンジは少し驚いた顔をした。

「……はい。もし私がまだ……ここへ来ていいのなら」

“まだ来ていいのなら”。

 その言葉に、胸が妙にざわついた。
 まるで、彼が自分自身に対して「来る資格がない」と思っているかのようだった。

 その夜。
 サンジの席だけが、いつまで経っても冷たく感じた。
 まるで、そこに座っていた彼が、ただの客ではないことを告げるように。

 私はふと気づいた。
――あの男の過去には、触れてはいけない何かがある。

 その直感は、のちに確信へと変わることになる。

第4部 違和感と確信

 サンジが来店しなくなったのは、あの「後悔ばかりですよ」と言った夜の数日後からだった。
 いつもなら閉店前の静かな時間に扉が開き、彼の柔らかな気配が店内に流れ込んでくるはずだった。しかしその気配はパタリと途絶えた。

 一週間ぶりに、扉が音を立てて開いた。
 そこに立っていたのは、やつれた顔のサンジだった。

「……ご無沙汰しています」
「体調、崩されてましたか?」
「いえ。少し……考えることがあって」

 彼の声は弱々しく、目の下には深い影が落ちていた。
 座る仕草も以前よりゆっくりで、体の芯が疲れ果てているようだった。

 ウイスキーを出すと、彼はグラスに触れる前に長い溜息をついた。
「店主さん……私がここに来る資格、まだあるのでしょうか」
「資格なんて、必要ありませんよ」
「……本当に、そう思いますか?」

 その問いには、答えるより先に胸がざわついた。
 サンジは明らかに、何かの終わりを感じながら生きている。
 それは人生の疲れではなく、“決断をした人間”の表情だった。

 しばらく沈黙の後、サンジは懐から小さな折り紙の鶴を取り出した。
 丁寧に折られた、小さな白い鶴。
 彼はそれをカウンターにそっと置いた。

「これは……私が守れなかった人に、いつも渡していたものです」
 声の震え方が、ただの思い出ではないことを告げていた。
「守れなかった?」

 私が問い返す前に、サンジの目が揺れた。
 まるで心の奥底を覗かれたくないと拒むように。

「……すみません、変な話ですよね」
「いえ」
「この鶴を見ると、どうしても思い出してしまうんです。私が……本当はしてはいけなかったことを」

 その瞬間、私は確信した。
 彼は“誰かに強く縛られた罪”を抱えて生きている。

「サンジさん……もし、話したいことがあるなら」
 そう言うと、サンジは首を横に振った。
「いいんです。これ以上、誰にも迷惑をかけたくないんです」

 彼はグラスに一口も触れず、ただ静かに手を組んだまま話し続けた。
「店主さん。私はね……もうすぐ、ここに来られなくなるかもしれません。それが怖いとかではないんです。ただ……寂しい」
「何かあったんですか?」
「……ええ。ありました。ただ、それは私が背負うべきもので、あなたが背負う必要はありません」

 これ以上は聞いてはいけない。
 そう直感しながらも、私は胸の奥に不安が固まっていくのを感じていた。

「最後に、お願いがあります」
「……はい」
「もし、私が急に来なくなったら……どうか、私のことを忘れてください」

 その言葉には、どこか死を覚悟したような響きがあった。
 私は思わず言った。
「忘れられるわけないでしょう」
「……それでも、そうしてほしいんです」

 サンジは深く、深く頭を下げた。
 彼が見せることのなかった礼の仕方だった。

 その後、彼は短く「ありがとうございました」とだけ言い、足早に店を後にした。
 背中は痩せたように見え、今にも折れてしまいそうだった。

 扉が閉まったあとも、店内には彼の残した沈黙が重く漂っていた。

 私はカウンターに置かれた折り紙の鶴をそっと手に取った。
 その軽さに似合わないほど――胸が痛かった。

 確信があった。
 サンジは、ただの客ではなかった。
 彼の影の正体は、私が思っているよりもずっと重く、深いものなのだと。

 その夜の静けさを、私は一生忘れないだろう。

第5部 静かな消失と真実

 サンジが店に姿を見せなくなったのは、あの折り紙の鶴を置いていった夜からだった。
 彼が「もうすぐ、ここに来られなくなる」と言った言葉が胸に残り、私は閉店後の静かな店内で、その言葉の意味を何度も考えた。

 翌日も、その次の日も、サンジの姿はなかった。
 あれほど決まった時間に現れていた男が、何の前触れもなく消える。
 胸の中に、不安が丸く固まっていくようだった。

 三日目の夜になっても、扉は静かなまま。
 私は気づけば、彼がいつも座っていた席を何度も見ていた。
 そこに置かれた折り紙の鶴は、変わらず白く、小さく、静かだった。

 五日目の夜。
 私はテレビのニュースをつけながら、仕込みをしていた。
 いつも通り、何気なく聞き流していたはずだった。

「――五年前の“事故死”とされていた男性の再調査で、新たな証拠が見つかった件です」

 私は思わず手を止めた。
 アナウンサーの声は落ち着いているのに、胸がざわついた。

「事件当時、同居していた兄弟間のトラブルがあった可能性が高いとして、警察は本人の事情聴取を進めていました」

 映し出された映像に、私は息を呑んだ。
 画面の端に、モザイク越しに映った“後ろ姿”。
 動き方、姿勢、肩の落とし方――
 どう見ても、サンジだった。

「本日、警察は“自首があった”と発表し、事件性を認め、男性を任意同行しました」

 手から力が抜け、包丁がまな板に落ちた。

 画面には、サンジの名前が、静かに、残酷なほど淡々と流れた。
 事件の内容も、すぐに説明された。

「被害者の男性は、長年の家庭内暴力を行っていた兄。
 兄の暴力から妹を守るため口論となり、被害者を突き飛ばし——頭部を強く打ったことで死亡したとみられます」

 私は呆然とした。
 サンジの「守れなかった」「後悔ばかり」という言葉の意味が、一気に繋がった。

 彼は、ただの犯罪者ではなかった。
 誰かを守るために、壊れたのだ。
 そしてその代償を、自分一人で背負い続けていた。

「なお、妹の遺した日記がきっかけで事件の再調査が行われ――」

 そこで私の目に涙が溜まった。
 サンジが何度も言っていた“守れなかった人”。
 それは妹だったのだ。

 気づけば私は、カウンターの席を見つめていた。
 彼がいつも静かに座っていたあの場所。
 誰にも迷惑をかけず、誰よりも丁寧に、この店を扱ってくれていた場所。

 折り紙の鶴を手に取ると、軽く震えた。
 サンジが残した唯一の“罪の証”であり、“愛の証”でもあった。

「……サンジさん」

 声に出すと、店の空気が揺れて聞こえた。
 彼の静けさ、優しさ、影、後悔――
 そのすべてが胸に押し寄せてきた。

 店の照明を少し落とす。
 カウンターの上に置いた折り紙の鶴が、ほのかな灯りに照らされ、柔らかい影を落とした。

 私はグラスをひとつ用意し、ウイスキーを少しだけ注いで彼の席に置いた。

「また来てくださいよ。……忘れろなんて、無理ですよ」

 静かな店内に、グラスの音が小さく響いた。
 サンジのいない夜は、やけに長かった。
 けれど、彼が背負った罪と優しさは、確かに私の店に刻まれていた。

 その夜、私はそっと目を閉じた。
 サンジという男の影は、もうここにはない。
 しかし――
 彼が残した温度だけは、消えることなく漂い続けていた。

【自家製ビーフジャーキー完成】牛バラ肉で作る柔らか濃厚なおつまみ|東京都大田区「呑み処ちょっと」

東京都大田区の住宅街にある小さなバー 「呑み処ちょっと」 の店主です。
今回は、新メニューとして仕込みからこだわった 自家製ビーフジャーキー をご紹介します。

一般的な硬いジャーキーとは違い、今回はあえて 牛バラ肉 を使用。
その結果、柔らかく濃厚で、お酒に合いすぎる“新感覚ジャーキー”が完成しました。

この記事では、仕込みの工程、味の特徴、お店での提供方法まで詳しくまとめています。
大田区でのんびり飲めるバーをお探しの方にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。


■ 牛バラ肉で作る「柔らかビーフジャーキー」とは?

ビーフジャーキーと聞くと、
「噛みごたえのある赤身肉で作られたもの」というイメージが強いと思います。

しかし今回は、あえて 脂があり旨みの濃い“牛バラ肉” を使用しました。

● 牛バラ肉を選んだ理由

  • 脂の甘みが強く、低温燻製に向いている
  • 薄切りにすると柔らかい仕上がりに
  • ジャーキーにした時の香りが格別
  • 濃厚な味付けと相性がいい

結果として、
「しっとり柔らかく、噛むほどに旨みが溢れる」
という唯一無二のジャーキーになりました。


■ 仕込みの工程|味が染み込む理由

今回のビーフジャーキーは、ただ乾燥させるだけではありません。
しっかりと 旨み・香り・食感 を引き出すために、次の工程を踏んでいます。


▼ ① 下処理:肉のカットと余分な脂落とし

牛バラ肉はそのままだと脂が多いため、
“旨さだけ残して” 食べやすいように軽く整えています。

薄めに切ることで、
仕上がりの柔らかさ味の染み込み が大幅に変わります。


▼ ② 特製ダレにじっくり漬け込む

味の決め手はこのタレ。

  • しょうゆ
  • にんにく
  • 生姜
  • スパイス
  • 少量の甘み

これらを合わせ、数時間〜一晩かけてじっくり漬け込みます。

漬け込みで肉がぎゅっと締まり、
「濃いけど飽きない」味付け に仕上がります。


▼ ③ 低温燻製でじっくり乾燥

低温を保ちながら、数時間かけて燻製。
火が通りすぎないように温度管理をしつつ、
煙の香りを肉にまとわせていきます。

完成したジャーキーは、旨みが凝縮されているのに柔らかく、
口の中でほどけるような香りの広がりがあります。


■ 味の特徴|“濃厚 × 柔らかい” 新食感ジャーキー

牛バラ肉を使って仕上げたことで、一般的なジャーキーと比べると特徴がはっきりしています。

● 味のポイント

  • しっとりと柔らかい
  • 脂の甘みと香ばしさが引き立つ
  • タレの旨みがしっかり染みている
  • 口に入れた瞬間ふわっと香る燻製香

特にお酒が好きな方からは、
「これはジャーキーというより贅沢なおつまみ」
と感じてもらえる仕上がりです。


■ お酒との相性が抜群

当店ではビール、ウイスキー、ハイボール、日本酒など
幅広いお酒をご用意していますが、このジャーキーはどれとも相性抜群。

● とくに合うお酒

  • ハイボール
  • バーボン
  • ウイスキー
  • ビール
  • 日本酒(燻製との相性が意外と良い)

脂の甘さと香りがあるので、
「濃いめのハイボール」 が特におすすめです。


■ 東京都大田区の小さなバー「呑み処ちょっと」で提供中

大田区の住宅街にある当店は、
“気軽にひとりで入れる、落ち着いた小さなバー” を目指しています。

今回のビーフジャーキーは
数量限定 での提供となります。
丁寧に仕込んでいるため大量生産はできませんが、
そのぶん、他にはない味を楽しんでいただけます。


■ まとめ|柔らか濃厚なビーフジャーキー、ぜひ一度ご賞味ください

牛バラ肉を使った
「柔らかく濃厚」 な自家製ビーフジャーキー。

  • しっとり柔らかい
  • 香りが濃厚
  • お酒との相性が最高
  • ここでしか食べられない味

そんな一品に仕上がりました。

大田区でふらっと飲めるバーを探している方、
珍しい自家製おつまみを味わってみたい方は、
ぜひ「呑み処ちょっと」へお越しください。

第3話

第一部 「静かな入口」

店の扉は古く、開けるたびにかすかに軋む。
ここは小さなアンティーク調のバーだ。聞こえは良いが、実際はただ年季が入っているだけで、客が多いわけでもない。
だが、この静けさを好んでくれる客が、ゆっくりと酒を飲んでいく。それで良いと思ってきた。

最近よく来る青年がいる。ノスケ。
背が高く、細く、栄養が足りてなさそうな身体つき。
どこか影のある目をしているが、礼儀正しく、騒がない。
ビール一杯で長く座るあたり、懐具合は察するものがある。

ある夜、店の扉が再び鳴いた。
入ってきたのはレナという名の女性。
仕事帰りらしく落ち着いた服装で、空気の柔らかい人だった。

「ノスケ君、来てるかなと思って」
そう言って、彼の隣に座った。
二人は恋人というには距離があり、友人にしては目線が優しい。
名前をつけられない関係は、美しくも脆い。

その数日後の夜。
レナは小さな袋を持って来た。
ノスケの誕生日だという。
彼女が渡したのは細いシルバーのブレスレット。
派手ではないが、存在感のある良いものだった。
ノスケはそれを受け取って笑った。
だがその笑顔には、かすかに影があった。

嬉しさと、劣等感。

「ありがとう、本当に…」
そう言いながら、指先が震えていた。
彼は自分が何も返せないことを分かっていた。
彼女はそれでも笑っていた。
「いつか返してくれたらいいよ。今じゃなくて」

その言葉は優しさであり、同時に、ノスケの胸に残る棘にもなっただろう。

その夜、帰り道。
レナが店の前で少し立ち止まって、夜空を見上げていた。
ノスケは後ろから少し遅れて歩き、彼女の横に立った。
言葉はなかった。
けれど、肩と肩がわずかに触れた。

「良い関係だな」と思った。
だが、良い関係ほど、形のないものほど、崩れやすい。
人は、心に余裕がなくなった時、支えられていたものに気づけなくなる。

あのブレスレットが、二人を繋ぐ最後の糸になるとは、まだ誰も知らない。

@nomidokoro.chotto

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♬ オリジナル楽曲 – 呑み処ちょっと – 呑み処ちょっと


第二部 「曖昧な距離」

レナは、ノスケをときどきこの店へ誘った。
待ち合わせの時間より少し早く来て、決まって同じ席に座る。
カウンター中央、ライトの下。
彼女はそこで、少し緊張したようにグラスを両手で包みながら待っていた。

ノスケは、いつも遅れぎみに店へ来た。
理由は聞かない。
きっと、彼自身が自分の時間に追いつけていないのだろう。
生活のペースも、夢も、食事も、すべてがぎりぎりで転がっているような青年だった。

二人で並んで飲んでいる時、レナはよく笑った。
ノスケの話の中にある、夢の破片のような言葉をひとつひとつ拾い上げていた。
「いつかでっかいステージに立ってさ」と言うノスケの目は、その瞬間だけ本物に輝いていた。
レナはその光を、まっすぐ見ていた。

けれど、ノスケはレナを「良い飲み仲間」と呼んだ。
それ以上の言葉を持たなかったのか、持つ余裕がなかったのか。
曖昧な関係は、二人のあいだで長く揺れ続けていた。

ある日、レナがこっそり話してくれた。
「別にね、付き合ってほしいわけじゃないんだけど…」
その前置きが、すでに胸を締め付ける。
「一緒にいる時間が、ちゃんと“何か”だったらいいなって思うの。」
ノスケは笑っていたが、その意味は、きっと届いていなかった。

そして、転機は突然来る。

ノスケのYouTubeに上げた歌が、ある日を境に急に再生され始めたのだ。
SNSで拡散され、コメントが増え、登録者も跳ね上がった。
本人も驚いていたが、同時にどこか浮き足立っていた。

「マスター、俺…いけるかもしれない。」
そう言ったときのノスケは、初めて自分自身に手を伸ばせている人の顔をしていた。
あの夜、レナは彼を見つめながら泣きそうに笑っていた。
自分の望みではなく、彼の夢の背中を押す人の顔だ。

しかし、成功はいつも優しいわけじゃない。

ノスケは忙しくなり、店に来る頻度は増えたが、レナと来ることはなくなった。
そして、話す内容は金と再生数と未来のことだけ。
彼の周りは、急に眩しすぎる世界へ広がり始めていた。

レナは、しばらくしてひとりで来た。
ハイボールを半分飲んで、静かに言った。

「私、あの子のことが好きなんだと思う。」
声は震えていなかった。
けれど、目は何かを諦める準備をしていた。

俺は何も言えなかった。
言葉をかければ、何かを歪めてしまいそうで。

グラスの中の氷が、静かに音を立てて溶けていく。
二人の距離もまた、溶けて、形を失い始めていた。

@nomidokoro.chotto

第3話2部【曖昧な距離】 恋愛小説 小さなバー 大田区 吞み処ちょっと

♬ オリジナル楽曲 – 呑み処ちょっと – 呑み処ちょっと


第三部 「すれ違いの夜」

ノスケが店に来る頻度はさらに増えた。
以前のような静かなビールではなく、派手なカクテルや、値段の高いウイスキーを迷いなく注文するようになった。
俺はそれを止めなかった。
止められる立場でもなかった。

彼はよく話した。
自分の動画の再生数、企業案件、ライブの依頼、ファンからのメッセージ。
その話は確かに眩しかったが、その中にレナの名前は一度も出なかった。

ある夜、レナが久しぶりに店へ来た。
ノスケとは連絡が取れていないと言う。
「忙しいんだろうね」と、無理に明るく笑ったが、その笑顔は細くて薄かった。

その直後のことだ。
偶然、ノスケが扉をくぐってきた。

時間が止まったように思えた。
二人の視線が、店の中の空気を引き締めた。

「……あ、レナ。」
ノスケは軽く手を上げたが、どこか気まずさを隠そうとしていた。
レナは微笑んだ。
その微笑みは、相手を傷つけないためのものだった。

二人は向かい合って座った。
話は弾まなかった。
話せる言葉が、もう互いに同じ場所にはなかった。

レナの視線が、ふとノスケの手首へ向いた。

そこにあるはずの、銀のブレスレットはなかった。

レナは気づかれないように、息をひとつだけ吸った。
ノスケは気づかなかった。
いや、気づかないふりをしたのかもしれない。

「元気そうでよかった。」
レナはそれだけを言って立ち上がった。
その背中は、決めてしまった人の背中だった。

扉の鈴が鳴ったあと、静けさが戻った。
ノスケは何も言わなかった。
ただグラスの中を見ていた。

「なくしたのか?」
俺はあえて聞かなかった。
それは違う。
失くしたのではなく、外したのだ。

ノスケは、その夜、いつになく酔った。
「俺、ちゃんと掴みかけてるんですよ…夢を…」
言葉は熱を帯びていたが、瞳はどこか遠くを見ていた。

成功に手が届くとき、人は大事なものをポケットに入れているつもりで落としてしまう。
そして落としたことに気づけるのは、ずっとあとだ。

この時はまだ、二人の物語が終わったのだと、俺でさえ思っていた。

@nomidokoro.chotto

第3話3部すれ違いの夜 小さなバーをモチーフに小説を作っています。実店舗なので良かったら遊びに来てくださいね #恋愛小説 #小さなバー #大田区#吞み処ちょっと #大田区

♬ オリジナル楽曲 – 呑み処ちょっと – 呑み処ちょっと


第4部 「沈む影と灯らない言葉」

ノスケが店に顔を見せなくなっていた頃、噂は自然と耳に入った。
バズっていたYouTubeの収益が落ち始め、再生数もじわじわと下がっているらしい。
本人は何も言わないが、拭えない焦りは、あの細い肩にも影を落としていた。

そんなある晩、店の扉が重く開いた。
ノスケだった。
前に来ていた時のような勢いはない。だが、それを認めたくないプライドが先に立っている。

「マスター、ハイボール。安いやつでいい。」

声は乾いていた。
私は言われた通りに作り、カウンターへ置く。
ノスケはグラスを掴み、喉へ一気に流し込んだ。
酒というより、何かを押し流したかったのだろう。

その数分後、扉がもう一度開く。
レナだ。
いつも通り整った身なり、落ち着いた表情。
けれど一瞬だけ、ノスケと目が合うと、呼吸が浅くなったのがわかった。

「……来てたんだ。」

レナの声は平静を装っていた。
ノスケはグラスを指先で回しながら、目を合わせない。

「別に。来ちゃダメだった?」

その言い方は、どこか突き放すようだった。
本当は余裕がないとき、人は優しさより先にとげが出る。

レナはそれでも、表情を変えない。
大人だ。
自分を守る術を知っている強さを持っていた。

「そうじゃないよ。ただ…久しぶりだなって思って。」

「ふーん。」

沈黙。
氷が溶けていく音だけが聞こえる。

私は氷を足しながら、心の中でそっと息をついた。
二人は、互いに相手を気にしているくせに、真っ直ぐ言葉を投げられない。

レナはグラスを一口飲み、表情だけで強さを保ち続けていた。
弱さを見せたら崩れてしまうと、どこかで知っている人の飲み方だ。

「ノスケ、最近どう?」

「まぁ…普通。」

ほんとは普通じゃない。
でも、言えない。
若さゆえの意地か。
悔しさか。
それとも、レナに見せたくない格好の悪さか。

レナはその嘘を見抜いていたが、追わなかった。
優しさというより、尊厳に触れないという距離感。

「そっか。なら、よかった。」

その言葉は、少し苦かった。

ノスケはグラスを置いて立ち上がる。

「今日は帰るわ。マスター、また。」

そう言いつつ、出口へ向かう。
その背中は小さかった。
あれほど大きな夢を語っていたのに。

レナはただ見送った。
呼び止めない。
追いかけない。
それが、彼の心に触れすぎない優しさだと知っているから。

扉の鈴が鳴る。
ノスケが去り、静かな空気が落ち着いた。

レナはグラスを見つめ、小さく息を吐く。

「強くいられるって、疲れますね。」

その声は震えていなかった。
泣く手前でもなかった。
ただ、確かに痛かった。

私はカウンター越しに言う。

「強い人ほど、誰かの前で弱くなっていいんですよ。」

レナは、かすかに微笑んだ。
それは、崩れないギリギリのところで保たれた、か弱い強さだった。

@nomidokoro.chotto

第3話4部「沈む影と灯らない言葉」大田区にある小さなバー【吞み処ちょっと】をモチーフに小説を作っています。 実店舗なので良かったら遊びに来てくださいね 大田区六郷土手雑色小さなバーAI小説

♬ オリジナル楽曲 – 呑み処ちょっと – 呑み処ちょっと


第5部 「灯が戻る夜」

ノスケが再び店に来るようになったのは、秋口だった。
再生数はさらに落ち、広告収入はほとんど無くなり、期待していた契約も流れたらしい。
SNSの華やかな投稿も止まり、彼のまわりからは人が消えた。
派手な仲間は、金がなければあっという間に消える。
それが現実だ。

ある夜、店の扉が静かに開いた。
ノスケは痩せて、少し疲れた目をしていた。

「……マスター。いつもの、安いやつ。」

私はうなずき、グラスに氷を落とす。
ノスケはそれを受け取り、少しずつ飲んだ。
以前のような勢いで流し込むのではなく、味わうように、噛みしめるように。

「……俺さ、全部失ったわけじゃないのに、なんか空っぽなんだよ。」

その声は、誰に向けたものでもなかった。
ただ、やっと自分に向けて言えた言葉だった。

扉がもう一度開いた。

レナだった。

ノスケは一瞬だけ身体を硬くする。
だが、逃げなかった。

レナはいつも通り落ち着いた表情で席につく。
「こんばんは。」
それだけ言って、視線はノスケに向けない。
強がっている。だけど崩れていない。
そのバランスが痛々しくて、美しかった。

やがて、ノスケが口を開いた。

「レナ。……前はごめん。」

レナは目線をあげる。
責めず、問いたださず、ただ聞く。

「俺、怖かったんだ。
自分がちっぽけすぎて、レナに何も返せないのが。
だから、距離置いた。かっこ悪いよな。」

レナは小さく息を吸い、優しい声で言った。

「かっこ悪くても、逃げなければいい。
それだけで十分だよ。」

ノスケはゆっくりと手首をまくる。
そこには――あのシルバーのブレスレット。

「手放せなかった。
レナのこと、忘れたことなかった。」

レナの唇が震える。
でも涙はこぼさない。
強さはそのまま、ただ心だけが柔らかく揺れていた。

「……じゃあ、また飲もうよ。
前みたいに。
でも前と同じじゃなくていい。」

ノスケはうつむいて笑い、そして顔を上げる。

「うん。
俺、ちゃんとレナと居たい。」

レナはそっと頷いた。

その瞬間、二人の距離はもう、曖昧ではなくなった。

私は二つのグラスに同じ酒を注ぐ。
音は静かで、深く、温かかった。

「おめでとう。
……いや、まだ早いか。
でも、そう言わせてもらうよ。」

ノスケとレナは、視線を合わせて、微笑んだ。

外は相変わらず夜だ。
でもこの店の中だけは、確かに灯がともっていた。

人の心は派手な瞬間ではなく、
静かに戻ってくる場所で、形になる。

この店がその“戻る場所”である限り、
私はそれでいい。

終わり

@nomidokoro.chotto

第3話5部【灯が戻る夜】大田区にある小さなバー【吞み処ちょっと】をモチーフに小説を作っています。 実店舗なので良かったら遊びに来てくださいね 大田区六郷土手雑色小さなバーAI小説

♬ オリジナル楽曲 – 呑み処ちょっと – 呑み処ちょっと

密会予約

今回の小説はそれぞれのキャストによっての目線を分けて3話にしてみました。先ずは店主目線からお楽しみ下さい。

第2話 ― 店主目線

昼下がりの光が差し込む店内は、夜とはまるで別の顔をしていた。
普段なら静かに掃除や仕込みをしている時間に、今日は特別な予約が入っている。密会予約――久々の利用だった。

現れたのは四十代半ばの男。姿勢は堂々としているが、目元に疲れが滲んでいる。中小企業の社長だと聞いた。隣には三十代前半の女性、取引先の事務員らしい。彼女はきちんとした服装で、真面目さがそのまま形になったような印象を受けた。二人が夫婦でないことは、言葉を交わす前から分かる。

初めての予約のとき、店内の空気は柔らかかった。男はよく笑い、女は照れながらもその笑顔に引き込まれていた。どこにでもいる恋人同士のように見えたが、心の奥では「この関係は長くは続かない」と私は直感していた。

二度目の利用では様子が違った。女は最初こそ楽しげに話していたが、男の口数が少なく、笑顔に影が差していることに気づいたのだろう。次第に彼女の表情が曇っていき、グラスの中の氷を指で回す仕草に寂しさが滲んでいた。男は何かを言い出そうとしては口を閉ざし、逃げ場を探すように酒をあおる。私は黙ってグラスを磨きながら、二人の距離がわずかに開いていくのを見ていた。

そして今日。昼下がりに現れたのは女ひとりだけだった。予約もなく、扉を開けるその姿には、決意のようなものと同時に脆さが宿っていた。彼女はカウンターの端に座り、視線を落としたまま「一杯だけ」と囁く。声はかすかに震えていた。

私は彼女にグラスを差し出しながら、胸の奥で思う。この場所は、出会いも別れも静かに受け入れる器でしかない。私はただ見守ることしかできないのだ、と。

第2話 ― 男性目線

時計を気にしながら、昼下がりの扉を押す。
仕事の合間を縫ってここへ来るのは、楽しみであり同時に重荷でもあった。家庭に背を向け、嘘を重ね、誰よりも近くにいるはずの妻に対して言い訳ばかりしている自分。

初めて彼女とこの店に来たとき、心が久しぶりに解き放たれるのを感じた。彼女は不器用に笑い、真剣に話を聞いてくれる。会社でも家庭でも味わえない、安らぎの時間だった。あのときは、ただ彼女と一緒にいるだけで幸福だった。

だが二度目の利用の時点で、すでに胸の中で葛藤が始まっていた。家に帰るのが遅い日が続き、妻の視線は冷え切っている。子どもたちの前で笑顔を作る自分に嫌気がさす。
「もうやめるべきだ」――理性はそう囁く。
だが、彼女が目を輝かせて語る姿を見ると、言葉が喉に貼りついて出てこない。

その日、彼女の笑顔が次第に曇り、悲しげな瞳でこちらを見つめていることに気づいた。彼女は悟ったのだろう。自分がこの関係を続けられないと考えていることを。胸が締め付けられた。だが、どうしても言葉にできなかった。彼女を傷つけたくなかったし、自分の弱さを見せたくもなかった。

そして今日。予定も告げずに現れることはないと思っていた彼女が、この場所にひとりで来たと聞き、胸がざわついている。
私は来なかった。家庭の事情を理由に、自分に言い訳をした。だが本当は、怖かったのだ。彼女の本心と向き合うことが。

心の奥底で分かっている。
彼女はもう、ひとりで立ち向かおうとしているのだと。
そして私は、逃げることを選んでしまったのだと。

第2話 ― 女性目線

扉を開けた瞬間、昼下がりの静けさが胸に広がった。
彼と一緒ではなく、ひとりでこの店に来るのは初めてだった。

最初に来た日のことを思い出す。彼の隣で過ごした時間は、まるで夢のようだった。普段は堅苦しい会社の空気の中でしか会えなかった彼と、自由に笑い合えることが嬉しかった。私は経験が少ない分、そのひとときがすべての世界に思えた。

二度目の来店で、彼の態度に小さな違和感を覚えた。笑顔が減り、視線がどこか遠くを見ているようで。最初は気のせいだと思いたかった。けれど、会話を重ねるうちに分かってしまった――彼は距離を取ろうとしているのだと。

胸が痛んだ。私は真面目にしか愛せない。相手を信じ、全身でぶつかってしまう。だからこそ、彼の沈黙が刃のように突き刺さった。無理をして笑おうとしても、涙が喉の奥でつっかえてしまう。

そして今日。彼が来ないことは、最初から分かっていた。
それでも私はここに来た。
最後に、彼と過ごした場所の空気を吸い込みたかったから。彼に会えなくても、ここに座ればあの時間を思い出せる気がした。

カウンターに並ぶボトルを見つめながら、私は心の中で彼に語りかける。
「ありがとう。あなたを好きになれた自分を、私は後悔しない」

それでも涙は止まらず、グラスの中へ静かに落ちていった。

女子プロレス川崎にきたる❗

10月4日14時から
カルッツかわさき
にてプロレス大会が開催されます!
お店によくきていただいているお客様から数枚のご提供をいただきましたので、
プロレスを1度見てみたいという方をご招待します!
(良かったら当日売店で何かしら買っていただいたら嬉しいそうです(嬉しい))

興味のある方はお声がけください!
お待ちしてます😊

女子の試合中心で、
ウナギサヤカ選手などが参戦されるそうです!

おまかせパスタの具材

ミートソースを作りました!今回はマッシュルームを使って濃厚なソースを作りたいと考えました。細かく写真を撮りましたので創造しやすいと思いますので見てくださいませ。

先ずは玉ねぎを3個スライスして飴色になるまで炒めます。
マッシュルームを6個と大きい茄子を2個を2cm角に刻みます。
オリーブオイルで1キロのブタひき肉を火が通るまで炒めます。
自家製のベーコンとニンニクを6片を潰して入れます。
マギーブイヨンとトマト缶3缶に水400cc具材を入れて30分煮込んで火を切って20分休ませます。それを三回繰返し塩、小麦粉を加えて好きな粘土と塩味を調整して出来上がり。今回は13人前を作りましたので分量は作りたい量によって調整して下さいませ!またミートスパッティーだけではなくパンに着けたりいろんな料理に使えると思うので参考にして下さい。

井上尚弥VSアフマダリエフ

【井上尚弥試合中継イベント】
みなさんご存知かと思いますが今月の14日(日)は井上尚弥VSアフマダリエフの今回5度目の世界タイトル防衛戦に挑みます。

ビールでも飲みながら一緒に応援しませんか?
公式LINE限定で一緒に応援して井上尚弥が勝ったらテキーラショットを1杯ご馳走します☺️

テレビでは放送しませんしワザワザLeminoに登録して観るのも面倒かと思います。当日は14:30から始まりますが他の試合なので井上尚弥の試合は18時~20時かと思いますので18時からお店を開けますね❗
Leminoに登録や試合の詳しくは以下のリンクに確認して下さい。
井上尚弥VSアフマダリエフhttps://share.google/XTWlvm7KM9qp6KiHQ

barに纏わる小説【夜更けのカウンター第三部】


小説「夜更けのカウンター」

第三部 「過去と今をつなぐ夜」

 秋も深まったある晩、母娘は再び店を訪れた。
 母は少し緊張した面持ちで、娘はどこか決意を秘めた瞳をしていた。

「こんばんは、マスター」
「いらっしゃいませ。今日は……何か、大事な夜のようですね」

 二人は並んで腰を下ろす。
 母はウイスキーを、娘はホットワインを注文した。
 氷が落ちる音が、これから始まる話の前触れのように響いた。

 娘が切り出した。
「お母さん。実はね……少し調べてみたの」
 母の手が震えた。
「まさか……」
「ええ。お父さんの名前、昔の日記に書いてあったでしょう? 調べたら、まだご健在だった。もう引退してるけど、近くで暮らしているみたい」

 母はしばらく言葉を失った。
 長年、心の奥にしまってきた人物が、急に現実の姿を持ちはじめたのだ。

「会いたいの?」
 娘の問いに、母はしばらく考え、そして小さく首を振った。
「いいえ……私が会う必要はないの。もう別の人生を歩んでいる人だから。ただ……あなたがどうしても会いたいなら、止めはしないわ」

 娘は母の手を握った。
「私も迷った。でもね、今日ここで決めた。私は会わない。ただ、お母さんがどんな思いで私を育ててくれたのか、それだけ分かればいい。お父さんは遠い存在でいい」

 母の目から涙が一筋こぼれた。
「……ありがとう。本当に強い子に育ったのね」

 その瞬間、母と娘の間に長年の影が溶けていった。
 父を探す物語は、血の再会ではなく、母娘の心の再生として幕を閉じたのだ。

 マスターは静かに二人のやり取りを見守り、やがて一言だけ添えた。
「過去は変えられませんが、未来は選べますから」

 母は微笑み、グラスを掲げた。
「じゃあ未来に乾杯ね」
 娘もグラスを重ねる。
「うん、未来に」

 グラスが小さく触れ合い、澄んだ音が店に響く。
 その音は、過去を解き放ち、新しい時間を始める合図のようだった。

 夜更け、二人は肩を並べて店を後にした。
 月明かりに照らされた背中は、どこか軽やかで、希望に満ちていた。

 マスターは残されたグラスを磨きながら、小さく呟く。
「またひとつ、物語が終わった。けれど、きっと次の夜には新しい物語が始まる……」

 静かなバーには、変わらぬジャズが流れていた。

――第三部 了

barに纏わる小説【夜更けのカウンター第二部】


小説「夜更けのカウンター」

第二部 「母と娘の秘密」

 翌週の夜九時を回ったころ、再びあの女性が店の扉を押し開けた。
 だが、今度は一人ではなかった。彼女の隣には三十代半ばほどの女性が立っていた。大きな瞳と落ち着いた雰囲気。その表情には少し緊張がにじんでいた。

「こんばんは、マスター。今日は娘を連れてきたの」
「いらっしゃいませ。ようこそ」

 二人は並んでカウンターに腰を下ろした。
 母はいつものハイボールを。娘はグラスワインを頼む。
 照明に照らされた二人の横顔は、年齢の差こそあれど、血のつながりを映し出すように似ていた。

「お母さん、ほんとに変わったお店見つけたのね。静かで……落ち着く」
「でしょう? ここなら余計な耳もないし」

 母の声には、何かを切り出そうとする気配が漂っていた。
 娘は首を傾げる。

 やがて母は、グラスの氷を見つめながら言った。
「ねえ……あなたにずっと言えなかったことがあるの」
 娘の手が止まる。
「お父さんのこと?」

 母は小さく頷いた。
「若い頃、私は銀座で働いていてね。そこで出会った人が……あなたのお父さん。でも、その人には家庭があったの」
 娘は驚きと、どこか納得したような表情を浮かべた。

「だから、私は一人であなたを育てることにした。愛情が足りなかったかもしれないけれど、それだけは伝えておきたくて」

 沈黙が落ちる。
 店内のBGMが、静かに流れるピアノの音だけを響かせていた。

「どうして、今になって話そうと思ったの?」
「歳をとるとね……過去が急に重たくなるのよ。背負ったままじゃ、いつかあなたを傷つけると思ったの」

 娘はしばらくワインを見つめ、やがて口を開いた。
「お母さん、ありがとう。正直、少しショック。でもね……私はずっと愛されて育ったって分かってる。それで充分よ」

 母の目に涙がにじむ。
 彼女は慌てて笑顔をつくった。
「やだわ、私ったらお酒のせいね」

 娘は母の手にそっと触れた。
「ねえ、お父さんって、今どうしてるの?」
「それが分からないのよ。調べようと思えばできるのかもしれない。でも……怖いの」

 母の言葉に、娘は静かに頷いた。
 そして小さく、しかし確かに言った。
「私なら、知りたい。お母さんがどう思っても、私は知ってみたい」

 その言葉が、母の胸に重く響いた。
 長い間しまい込んできた秘密は、今まさに扉を開けようとしていた。

 その夜、二人が店を後にするとき、マスターはカウンター越しに軽く会釈をした。
 母は少し照れたように言う。
「ねえマスター、この店……不思議ね。来るたびに人生の続きを話さなきゃならない気がするわ」
「ここは物語の置き場所ですから」

 扉が閉まる。
 残された静寂の中、マスターは拭き終えたグラスを光にかざしながら呟いた。
「さて、次はどんな結末になるのか……」

――第二部 了